
本記事では、AIモダナイゼーションという文脈に絞って、FDEとBrSEの違いを整理するとともに、なぜAIモダナイゼーションのプロジェクトにFDEのような人材が必要とされるのかを解説します。AI開発やAIエージェント開発を推進し、レガシー刷新やAX支援を検討している企業の方はぜひ参考にしてください。
BrSE(ブリッジSE)とは
BrSEは、日本企業と海外の開発チーム(主にオフショア開発拠点)の間に立ち、言語・文化・技術面での橋渡しを行うエンジニアです。ベトナムやインドなどのオフショア開発が普及する中で生まれた職種で、単なる通訳ではなく、日本側の要件をオフショアチームが実装できる粒度まで解釈し、進捗管理や品質担保まで担う点が特徴です。
BrSEが力を発揮するのは、要件や仕様がある程度明確に定義できるプロジェクトです。決められた仕様を正確に伝達し、進捗と品質を管理することで、オフショア開発チームの生産性を最大化します。
FDE(Forward Deployed Engineer)とは
自社のAI・データ分析プラットフォームを持ち、顧客企業の現場に深く入り込んで、業務課題の特定からプロトタイプ開発、本番導入、定着支援までを一気通貫で担う点が特徴です。
FDEは通訳やコンサルタントではありません。自らコードを書き、インフラを構築し、顧客企業のオフィスや工場に常駐しながら、その場で動くシステムを作り上げていきます。近年は生成AIやLLMの普及に伴い、AI関連の求人サイトでもFDE系のポジションが急増しており、トップクラスのAI企業が数百人規模で採用を進めている状況です。
AIモダナイゼーションにおけるFDEとBrSEの違い【比較表】
同じ「橋渡し役」であっても、AIモダナイゼーションのプロジェクトに当てはめると、両者の違いはより鮮明になります。
このように、BrSEは「決まった仕様を正確に運ぶ」ことに強みがあるのに対し、FDEは「仕様が決まっていない状態から現場で答えを作っていく」ことに強みがあります。AIモダナイゼーションのプロジェクトは、まさに後者の性質を強く持つため、両者の役割分担を誤ると、プロジェクトが停滞する原因になりかねません。
なぜAIモダナイゼーションにFDEが必要なのか
ここでは、なぜレガシーシステムのAI刷新プロジェクトにFDEのような人材が求められるのか、その理由を4つに整理します。
1. 「仕様が確定できない」プロジェクトだから
従来型のシステム開発やオフショア開発は、要件定義で仕様を固め、その仕様通りに実装するウォーターフォール型の進め方が基本でした。BrSEが担ってきた「橋渡し」も、この確定した仕様を正確に伝達することが前提になっています。
しかしAIモダナイゼーションでは事情が異なります。AIの挙動はデータの質や現場の運用条件に大きく左右されるため、着手前に完璧な仕様を決めることが困難です。実際にプロトタイプを動かし、現場の反応を見ながら仕様そのものを作り変えていく進め方が不可欠になります。FDEは、まさにこうした「仕様が曖昧な段階から仮説検証を繰り返し、最適解を探索する」動き方を前提に設計された役割であり、AIモダナイゼーションのプロジェクト特性と非常に相性が良いのです。
2. レガシーの「現場知識」とAIの「技術知識」を同時に扱う必要があるから
レガシーシステムの刷新では、古い基幹システムがなぜそのような仕様になっているのか、現場の暗黙知やブラックボックス化した業務ロジックを解きほぐす作業が欠かせません。同時に、それをAIでどう置き換え、どう補強するかという技術的な設計判断も求められます。
BrSEやオフショアチームは実装力に長けていますが、多くの場合、クライアント側で既に確定した要件をもとに動く体制です。一方FDEは、現場に常駐して業務担当者の隣に座り、「実は表計算ソフトで何時間もかけて手作業している」といった潜在課題そのものを発見するところから関わります。レガシー刷新においては、この「現場に入り込んで課題を発見する力」と「その場でAIを実装する力」を併せ持つ人材が、プロジェクトの成否を左右します。
3. PoCで終わらせず「本番運用」まで責任を持つ必要があるから
AI活用が広がる中で多くの企業が直面しているのが、PoC(実証実験)は成功したのに本番運用に乗せられない、という「実用化の壁」です。ツールを導入しただけでは、AIのアウトプットが業務に耐えうるかどうかの判断に膨大な工数を取られ、かえって現場の生産性を下げてしまうことも珍しくありません。
FDEは、プロトタイプ作成だけで役割を終えず、実際に現場で使われる状態まで運用に乗せることを前提とした役割です。レガシーシステムをAIでモダナイズする際も、単に新しい技術を導入するのではなく、現場に定着し、成果が出るところまで伴走する人材がいなければ、プロジェクトは「作って終わり」になりがちです。AIモダナイゼーションを一過性の導入で終わらせないためには、FDE的な視点を持つ人材、あるいはそうした機能を担うAX支援パートナーの存在が欠かせません。
4. 移行後の「AIエージェント開発」にもそのまま活きるから
レガシー刷新のプロジェクトは、システムを新しくして終わりではありません。移行後の運用フェーズでは、監視や一次対応を担うAIエージェント開発を通じて、継続的にシステムを改善していく体制づくりが求められます。FDEが現場で培う「業務理解×AI実装」の経験は、こうした移行後のAIエージェント運用にもそのまま活かせるスキルセットです。
つまりFDEは、AIモダナイゼーションの「入口(仕様が固まっていない中での実装)」から「出口(移行後のAIエージェントによる自律的な運用)」まで、一気通貫で価値を発揮できる人材だと言えるでしょう。BrSEが得意とする「確定した仕様の正確な伝達」だけでは対応しきれない領域を、FDEが補完する構造になっているのです。
企業はどのように体制を組むべきか
AIモダナイゼーションを進める企業にとって、FDEとBrSEは「どちらか一方を選ぶ」ものではなく、プロジェクトのフェーズに応じて使い分ける、あるいは併用することが現実的な選択肢です。
- 既存システムの保守や、仕様が明確な機能追加を継続的に進めたい場合は、引き続きBrSEを中心としたオフショア開発体制が有効です。
- AIを活用した業務プロセスの刷新や、AIエージェント開発を伴う新しい仕組みづくりには、FDEのように現場に入り込んで仕様を作りながら実装まで担う人材が必要になります。
もっとも、FDE相当の人材を自社で採用・育成することは容易ではありません。多くの企業にとって現実的なのは、既存システムを支えるBrSE・オフショアチームを維持しながら、AIモダナイゼーションの領域では外部のAX支援パートナーと連携し、FDE的な機能を補完してもらうアプローチです。AI開発の知見を持つパートナーとともに、レガシー刷新とAI活用を段階的に進めていくことで、無理のない変革を実現できます。
AIモダナイゼーションのプロジェクトにおいて、BrSEとFDEは同じ「橋渡し役」でありながら、前提とするプロジェクトの性質がまったく異なります。AIモダナイゼーションは、仕様を事前に固めきれない不確実性の高いプロジェクトであるからこそ、FDEのような「現場で答えを作っていく」人材が欠かせません。自社の体制だけでこうした人材を確保することが難しい場合は、AIエージェント開発やAX支援に強みを持つ外部パートナーとの連携も、有効な選択肢の一つです。
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