
クラウド、AI、生成AI、IoTなどのデジタル技術が急速に進化する一方で、長年利用してきた基幹システムや業務システムが複雑化・老朽化し、新しい技術との連携を難しくしているケースがあります。
経済産業省やIPA(独立行政法人情報処理推進機構)も、レガシーシステムからの脱却とシステムモダナイゼーションを日本企業のDX推進における重要なテーマとして位置づけています。2025年に公表された「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」でも、既存システムが最新のデジタル技術導入の障害となっている状況が指摘されています。
本記事では、レガシーシステムがDXを阻む5つの主な理由と、日本企業が今後どのようにモダナイゼーションを進めるべきかを解説します。
レガシーシステムとは?
レガシーシステムとは、単純に「古いシステム」を意味する言葉ではありません。
一般的には、長期間利用される中で、技術の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ドキュメント不足などが進み、運用・保守や新しい技術との連携が難しくなった既存システムを指します。
例えば、以下のようなシステムが挙げられます。
- 長年利用している基幹システム
- 古いプログラミング言語で構築されたシステム
- 複数のシステムが複雑に連携している業務システム
- 担当者しか仕様を理解していないシステム
- API連携やクラウド移行が難しいシステム
- 継ぎ足し開発によって複雑化したシステム
重要なのは、「古いから問題」なのではなく、「変化に対応できない状態になっていること」が問題だという点です。
IPAの「DX動向2025」でも、レガシーシステムの刷新状況がDXを実現するための重要な技術テーマの一つとして取り上げられています。
レガシーシステムがDXを阻む5つの理由
1. 新しいデジタル技術との連携が難しい
DXでは、クラウド、AI、生成AI、IoT、データ分析など、さまざまなデジタル技術を組み合わせる必要があります。
しかし、レガシーシステムではAPIが整備されていなかったり、古いデータ形式を利用していたりするため、新しいシステムとの連携に多くの工数が必要になる場合があります。
特に近年は生成AIの業務活用が進んでいますが、AIを導入するだけではDXは実現できません。
社内に蓄積された顧客情報、販売データ、在庫情報、業務データなどを適切に連携し、AIが利用できる状態にする必要があります。
ところが、既存システムが複雑化していると、
「AIを導入したいが、必要なデータを取り出せない」
という問題が発生します。
IPAのレガシーシステムモダン化委員会でも、生成AIなど最新のデジタル技術を活用したくても、既存のレガシーシステムとの連携・組み込みがスムーズに進まない問題が指摘されています。
2. システムの保守・運用コストが増加する
レガシーシステムのもう一つの大きな課題が、保守・運用コストです。
システムが長期間運用されると、機能追加や改修が繰り返され、徐々に構造が複雑になっていきます。
その結果、
- 小さな変更にも時間がかかる
- 障害対応に専門知識が必要
- 保守費用が高くなる
- 新しい機能を追加しにくい
- システム変更による影響範囲が分かりにくい
といった問題が発生します。
本来、DXは新しいビジネスや顧客価値を生み出すための投資です。
しかし、IT予算の多くが既存システムの維持に使われてしまうと、新しいデジタル施策に投資できる余力が減少します。
つまり、レガシーシステムはDXの「技術的な障害」だけでなく、「投資余力を奪う要因」になる可能性があります。
3. システムを理解するIT人材が不足する
レガシーシステムの問題をさらに複雑にしているのが、IT人材不足です。
長年運用されてきたシステムでは、開発当時の仕様書が十分に残っていなかったり、複雑な業務ロジックがコードの中に埋め込まれていたりすることがあります。
そのため、
「このシステムがどのように動いているのか分かるのは、社内の限られた担当者だけ」
という状況が生まれます。
そして、その担当者が退職・異動すると、システムの知識そのものが失われるリスクがあります。
さらに日本では、DXを推進する人材そのものが不足しています。
IPAの「DX動向2025」では、日本企業の8割超がDXを推進する人材について「不足している」と回答しています。
そのため、レガシーシステムの理解とモダナイゼーションの両方に対応できる人材を確保することは、多くの企業にとって重要な課題となっています。
4. データが分散し、経営判断に活用しにくい
DXを実現するためには、企業内に蓄積されているデータを有効活用することが重要です。
しかし、レガシーシステムでは、部門ごとに異なるシステムが導入されているケースがあります。
例えば、
- 営業部門 → 顧客管理システム
- 経理部門 → 会計システム
- 生産部門 → 生産管理システム
- 物流部門 → 在庫・物流システム
- 人事部門 → 人事管理システム
のようにデータが分散していると、会社全体の情報をリアルタイムで把握することが難しくなります。
さらに、システムごとにデータ形式や管理ルールが異なる場合、データ統合そのものに大きな工数が必要になります。
結果として、
「データは大量にあるのに、経営に活用できない」
という状態が発生します。
DXでは単にシステムをデジタル化するだけではなく、データを活用して業務やビジネスモデルを変革することが重要です。
そのため、データを活用できる基盤づくりは、レガシーシステム脱却とセットで考える必要があります。
5. システム変更に対するリスクが大きく、改革を先送りしてしまう
レガシーシステムの刷新が進まない最大の理由の一つは、
「既存システムを変更するのが怖い」
という問題です。
基幹システムは企業の業務そのものに深く関係しています。
そのため、移行時に障害が発生すると、受注、販売、物流、会計などの重要な業務に影響する可能性があります。
結果として、
「今のシステムでも動いている」
「移行にはリスクがある」
「もう少し様子を見よう」
という判断が続き、モダナイゼーションが先送りされるケースがあります。
しかし、先送りを続けることで、システムがさらに複雑化したり、保守できる人材が減少したりする可能性があります。
経済産業省が2025年に公表したレガシーシステムモダン化に関するレポートでも、既存システムの問題を先送りすることによる中長期的なリスクが取り上げられています。
「2025年の崖」は終わったのか?
レガシーシステムについて語る際、「2025年の崖」という言葉を耳にすることがあります。
これは、2018年に経済産業省が公表した「DXレポート」で示された考え方です。
既存システムの老朽化・複雑化などがDXの障害となり、企業の経営改革が進まなければ、デジタル競争力の低下につながる可能性があるとして問題提起されました。
そして2025年を迎えた現在も、レガシーシステムのモダナイゼーションは終わったテーマではありません。
IPAは2025年の調査で、日本企業におけるDXやレガシーシステム刷新の状況を引き続き調査しています。さらに、2025年5月には「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」が公開されました。
つまり、「2025年の崖」は単純に2025年を過ぎれば解決する問題ではなく、既存システムをどのように現代化し、継続的に変化できるIT基盤へ移行するかという長期的な経営課題として考える必要があります。
日本企業が取り組むべきレガシーシステム対策
レガシーシステムの刷新では、いきなり全システムを作り直す必要はありません。
まずは以下のステップで現状を整理することが重要です。
STEP 1:既存システムを可視化する
どのシステムが存在し、どの業務・データと連携しているのかを整理します。
STEP 2:業務への影響度を分析する
すべてのシステムを同時に刷新するのではなく、事業への影響度やリスクを考慮して優先順位を決めます。
STEP 3:モダナイゼーションの方法を選択する
代表的な方法には、
- リホスト(クラウド移行)
- リプラットフォーム
- リファクタリング
- リアーキテクチャ
- リプレース
などがあります。
システムの状況や予算、業務要件に応じて適切な方法を選択することが重要です。
STEP 4:段階的に移行する
一度にすべてを変更するのではなく、重要度の高い領域から段階的に移行することで、事業への影響を抑えながら modernization を進めることができます。
レガシーシステムのモダナイゼーションには外部リソースの活用も有効
レガシーシステムの刷新には、既存システムの理解、クラウド、AI、データ連携、セキュリティなど、幅広い技術知識が求められます。
しかし、すべてのスキルを社内だけで確保することは容易ではありません。
そこで、日本企業では外部のIT企業や開発パートナー、オフショア開発企業などを活用し、必要な技術リソースを補完する方法も考えられます。
特にベトナムには、Web・クラウド・AI・データ・DevOpsなどの技術領域に対応できるIT企業が多数存在します。
重要なのは単純に開発コストを下げることではありません。
「自社に不足している技術・人材をどのように補完し、DXをスピードアップするか」
という視点でパートナーを選ぶことが重要です。
レガシーシステム脱却はDX推進の土台
レガシーシステムがDXを阻む主な理由は、以下の5つに整理できます。
- 新しいデジタル技術との連携が難しい
- 保守・運用コストが増加する
- システムを理解するIT人材が不足する
- データが分散し、活用しにくい
- システム変更へのリスクから改革が先送りされる
DXは、新しいツールを導入するだけでは実現できません。
企業が継続的に業務を改善し、新しいサービスを生み出し、AIやデータなどの技術を活用していくためには、変化に対応できるIT基盤が必要です。
その意味で、レガシーシステムのモダナイゼーションはDXの前提条件の一つといえるでしょう。
自社のシステムが「古いかどうか」だけを見るのではなく、
「今後の事業変化に対応できるシステムになっているか」
という視点から、既存システムを見直すことが重要です。
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